かたたん、たたん。かたん。隣の男の子が歩を進める度に、その背に負ったランドセルが歌う。

もう自分の息遣いと同じぐらいに耳慣れてしまったリズムは、いつもより若干速くて、イーピンは
こっそり心の中でため息をつく。
もうランボったら、こうなる事は分かっていたはずなのに、と考えながら。
今日は朝から寒かった。家の中にいても、息が真っ白になるぐらいに寒くて、ママンが入れてくれた
ホットココアでようやく人心地がついたぐらいだった。
外へ出れば、大層厚着をして確りとママン手製の防寒具まで着けていたというのに、冷たい風が容赦
なく肌を刺激して、頬がちくちくと痛かったのを覚えている。
それなのに、ランボは子どもは風の子だもんね、なんて言いながら上着とランドセルだけを引っ掴ん
飛び出していったのだ。
ママンが折角用意してくれた、イーピンのと色違いのニットの帽子も、マフラーも、手袋も着けてい
なかった。更には靴下さえ履いていない寒々しい格好だった。
あまりにも寒そうだったものだから(寒くないの?)そう問えば、ランボは(大丈夫だもんね、学校
暖房ついてるし!!)と元気よく答えたものだ。確かに、学校は暖房が付いていて暖かい、日だって昇って気温は上がる。
だけどその時の彼は大切なことを1つ忘れていた、“学校から帰るときには日も落ちてきて、また寒くなる。”という事を。

「はっくしょん!!」
「ブッシュー。」

ランボが隣で盛大なくしゃみをする。実際、朝とは比べ物にならない位にまた一段と寒くなった。厚着をしているイーピンでも体が凍ってしまいそうなのだから、薄着のランボは更に寒いに違いない。
ちらり、と隣を見れば、ランボの紫色の瞳には“早く暖かいお家に帰りたい”の文字がくっきりと浮かんでいるように見えた。西洋人独特の陶器のような白い肌も北風にさらされて赤く染まっている。

「ねぇ、ランボ。寒い?」
「さ、寒くないもんね。」
「・・・歯を鳴らしながら言っても説得力ないわよ。」

天邪鬼ね、とイーピンは呆れる。口で何を言おうと、今や全身で寒い寒いと五月蝿く言っているようなものなのに。
びゅう、と一段と冷たい木枯らしが二人の間を駆けていって、ランボのランドセルの歌が更に速くなる。ちょっと待ってよ、何て言っても寒さに震える彼は振り返りもしてくれなくて、イーピンは少し面白くない。
マフラーを半分貸してあげようか、とイーピンは思う。ママン手製のこのマフラーは、子どもの成長は早いからという理由で少しばかり今のイーピンには長いのだ。二人で巻けば、少し不恰好だけれど丁度いいはずだ。置いて行かれもしない。
手袋も半分貸してあげよう。もう片方の手は寒いから、その分手を繋げば良い。ランボという男の子は体温が人よりも高いからきっと暖かいに違いない。マフラーも半分こ、手袋だって半分こ、何だっていつだってランボとイーピンは半分こだ。半分こなのだ。

そこまで考えてイーピンは、これがとても、とても良い考えのような気がして、ふふふと笑った。

 

 

 

 

さむいさむいとうるさい君へ

 

24番目のネジ様より5set『冬』