低い庭木を掻き分けてみれば、その下には白い雪が綺麗なまま残っていた。
一昨日思うさま降った雪は、昨日のうちに粗方溶け、白く化粧した筈の地面もその肌を見せている。
ぐるりと見渡しても、庭にもう白の気配は見当たらない。ならば、これは一昨日の雪の忘れ形見であろう。
葉と葉の間をすり抜けて降り積もった雪は、日にさらされず、泥に汚されもせず、不自然な程にその白さを保っている。その白さが妙に目を惹いてしまい、桂はその場に立ち尽くした。
目を奪われる程に綺麗で清廉、それでいてそこだけが浮ついて見える様な、神秘的で、不自然な白。
その色に桂は見覚えがあった。
目眩を起こしそうなその色は、とある情景を呼び起こし、桂の中にいとも簡単に形作る。
それは、薄く開けられた襖の向こう、おぼろげな光の下で髪を梳いていた女性の、時折髪の間から見えるうなじ。そして、ちらりと見えて直ぐに着物で隠された女の背中であった。

その時見えた肌の色に、この白は似通っている―――。
そこまで考えて、桂は羞恥した。我に返ってみれば、どんどんと後ろめたさが喉をせり上がってくる。脳裏に映った情景は、これまで桂が否が応でも忘れようと努めてきた記憶であった。いけない。これはいけない、と桂はかぶりを振る。
屋敷の中からエリザベスが桂を呼んでいる。飯の用意でも出来たのだろう、すぐに行くと桂は返事をした。
もう一度庭木に隠れていた白を見下ろす。
あの時、桂はあの光景を見なかったことにした。どこの馬の骨とも知れぬ男と同じ屋根の下であるというのに、襖一枚隔てただけで無防備でいる女性≪ひと≫の己への大きな信頼に応える為に。恩人である彼女の心にこれ以上負担を掛けることのない様に、桂は見なかった事にした。
だから、今度も見なかった事にしようと決める。桂はその手で掻き分けていた庭木をそっと元に戻し、屋敷へと向かった。

 

 

 

肌を隠す

 

24番目のネジ様より5set『冬』